な・つ

 最近、夏のイメージが、向こうから「これが日本の夏ですぜ~」と近づいてくる。こんな経験は、20数年の人生でもあまりなかった。全然知らない土地の、神社にお邪魔したら、たくさんの花火の残骸とすいかの食べさしがあった。友達から急な花火大会のお誘いが来た。予定が被ってて行けなかったけど。バイト後に夏祭りに行くことになり、人込みの中で出店やねぶた的な出し物の明り、月明かりに照らされながらブルーハワイのかき氷をつつく。キラキラするグッズを300円で買う。女の子たちのきれいな浴衣姿を眺める。帰りの電車から盆踊りの提灯が見えた。

 今日はたまたま小高い山になっている公園に登ったら、遠くで打ち上げ花火があがるのを見た。地元の人たちは知ってたみたいで、芝生の上で待機していた。「昔はもっときれいだったのにねえ」というお婆さん、双眼鏡を持ってる浴衣姿の子ども、通話しているお兄さん。

 思いがけないギフトのようでうれしい。当事者が楽しんでやっているイベントごとが、通りすがった他人をときめかせうれしい気持ちにさせるのは、不思議ですばらしい。

 ドレスコーズの『戀愛大全』というアルバムが大好き。そしてすごく夏の感じがする。経験していない夏の思い出が湧いてくる。経験した真夏の運動場の眩しさだとか疲れ果てた後のそよ風だとかも再生する。

 

嘔吐

 またゲロ吐いてしまった。もはや趣味。気持ちがいいのだ。のどをぐるぐる通り抜け、放出する。これだけのものが消化を免れた。達成感すら感じる。というのはうそで、惨めで気持ち悪くてアホで、自分はゴミくずだと思う。

 ある状況に入ると、トロッコで運ばれていくみたいに必然的に吐くしかなくなる。そうならないように、外出したり、タバコを吸ったり、バイトをしたり、いろんなものがある。それを今日は忘れていた。吐くに至らないためのありとあらゆる選択肢のことを、忘れてた。ケイパビリティという概念を唱えた人がいるらしい。選択しうる可能性が複数あることの自由と不自由。ちゃんと読んだことがないけど、気になっている。

夕焼けの色

 「夕焼けの色が毎日変わる理由を考えることと、金平糖はなぜ星の形であるのかという理由を考えることは似ている」

 好きな漫画に出てくるモノローグ。

 今日の夕焼けは黄金色だった。学芸会の照明みたいな、嘘っぽいくらいの黄金だった。注意深くまともで、やさしい視線を受けていられたときの幸福な記憶を思い出して、じんわりした。いつの間にか忘れていたんだと気づいた。

エスケープ

 夜も更けてから、近所にある小さい神社まで歩いて、ベンチに座って時間を過ごすのが日課のようになっている。家にいると、自分の輪郭が分からなくなって、訳が分からなくなってしまうので、そういうときに外に出て夜のシンとした空気にふれ、明りのついた家の間を歩くと、ほっとして正気に戻れる感じがする。

 その小さい神社は、昨今の風潮にも関わらず灰皿があり、とても、いい雰囲気なのだ。がらんどうで、でも寂しすぎなくて、じっと座っているだけでも、近所の家からテレビの音や赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたり、木々が風でサワサワ揺れたりセミがジリジリ鳴いたりと、にぎやかだ。

 緑色のペンキが剝がれかけたベンチに座って本を読むと、頭がすっきりして言葉がちゃんと入って来る。かゆいなと思うと蟻が腕や足に登っている。知らないうちに何か所か蚊に刺されている。ちゃんと不快だけど、動かずにしばらく滞在する。

 今日は、いつも英単語の教材CDが爆音で流れてくる家から、洋画らしき音が聞こえてきた。やたら壮大な効果音や爆発音だったので、ハリウッドのスペクタクルものかもしれない。継続して英語に触れていると思うと、ちょっと微笑ましかった。

 神社の境内に、黒猫がいた。夜空よりも木陰よりも黒かった。リラックスして堂々としていた。視線を外して戻したときにはいなくなっていた。

蚊に小指の付け根を刺された

先生の「助手もどき」として、夕方、資料をスキャンしたり出欠の入力したりとちょこちょこ働いている。週に一度のふしぎな時間。

今日はそれが終わって7時過ぎくらいに外に出たら、ぶわっと湿った植物の匂いがして、とてもなつかしい気持ちになった。こんな時間なのにまだ薄明るい。部活が終わって帰る人、まだ駆け回ってサッカーやっている人たちの声が響いて、静かだけど賑やかみたいな雰囲気になる。この時間帯の運動部って特別だなと思う。空が薄い黄緑から薄い水色、ブルーハワイみたいな強い青色から紺色になってて、軽トラのの荷台に寝っ転がってちょっとの間眺めた。(私は軽トラで学校に通っている)

別に空をみてもなにも思うことも考えることもないけど、先生が中国の卓球選手のこと話しているのおもしろかったなーとか、あの光ってるのは星か飛行機どっちかなーとか思っていたら小指の付け根を蚊に刺されて、ムカついたので速攻で車に乗って家に帰った。

今日のことは忘れないぞ、となんとなく思った。

 

♬Bialystocks「朝露」

いろいろありますわな

ここ最近、就活の書類選考に落ちたりバイトの面接に落ちたりと、自分の中で「あぁーそうかー私はそこにはいられないのかー」と分からされる経験があって、「どうしたらいいのかなー」と暗い、苦しい気持ちになっていた。

今日、久しぶりに友達に会って、どうでもいいけど好きなことの話や、ハマっていることの話をしたりして、なんだか気持ちが温かく柔らかくなった。相手が自分の言ったことや日常のことを覚えていて、質問してきてくれるということが、すんごいことだなと思った。

「来るもの拒まず去る者追わず」という言葉はシンプルだけど、実際には、求めたのに拒まれたり、自然と求め合えたり、そういう齟齬や合致がどうして起こるのか、とても不思議。

自分の立ち位置がしっかり分かっていれば、拒まれるものに対してあえて求めるという愚かなことをしないで済むのだけど、、分からないからしょうがない!

いっぱい当たって砕けても、ときどき求め合える人がいるというので救われる。

 

 

夜の散歩

真っ白で眩しい曇り空が嫌い。頭がキンキン痛くなってやる気が全く起きなくなるし、晴れの日より逆に日焼けしそうだし。今日はその天気で、早く夜になれとずっと思っていた。やっと日が落ちて、まさに水を得た魚みたいに自由な気分になったので、夜の散歩をした。

近所には、大通りに面する大きな公園があって、周りは明るいのにそこだけ高い木々に囲まれていて真っ暗になる。車通りもほとんどなかったが、ときどき直進したり左折したりする車のヘッドライトが真っ直ぐ公園に入ってきて、通り抜けて行った。雨上がりで地面がべちょべちょで泥が足についた。

電灯に照らされるジャングルジムがかっこよかった。無機質でちょっと不気味で、昼間のカラフルな見た目よりいいと思った。真っ黒だったり、もっと鉄骨みたいな感じのジャングルジムがあってもいいと思う。

飼い猫も窓から外に出て行ってしまい、すぐにベランダに帰ってきたがそこから家に入ろうとしない。しょうがないからゆっくり待つ。